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Special Feature · War and the Stock Market

戦争と株価
有名企業の20年と、現代の戦争

日経平均が生まれる前の戦時中から、敗戦、取引所の閉鎖、東証再開まで。トヨタや東芝など7社の株価を、当時の記録『株価20年(昭和33年版)』(東洋経済新報社)でたどります。後半では、ウクライナ侵攻やイラン攻撃など現代の戦争で日経平均がどう動いたかを、実データで検証します。

敗戦をはさんだ株価の下落(最大)
−78%
日本製鐵:1945年の高値→1946年の安値
1949年の物価(戦前比・卸売物価)
約209倍
1934〜36年平均を1とした水準
現代の戦争7件のうち、3ヶ月後に上昇
7件
日経平均・開戦前営業日との比較

有名企業7社の20年(1938〜1957年)

各年の棒は、その年の最高値から最安値までの幅です。値動きの大きさを比べやすいよう、縦軸は全社共通の対数目盛にしています。棒にカーソルを合わせる(タップする)と、数値が表示されます。

トヨタ自動車工業現 トヨタ自動車
戦時中閉鎖期東証再開後10301003001,0001938194519491957
松下電器産業現 パナソニック ホールディングス
戦時中閉鎖期東証再開後10301003001,0001938194519491957
東京芝浦電気現 東芝
戦時中閉鎖期東証再開後10301003001,0001938194519491957
日立製作所現 日立製作所
戦時中閉鎖期東証再開後10301003001,0001938194519491957
八幡製鐵現 日本製鉄⎣ 〜1949年は前身の日本製鐵
戦時中閉鎖期東証再開後10301003001,0001938194519491957
東洋紡績現 東洋紡
戦時中閉鎖期東証再開後10301003001,0001938194519491957
東京海上火災保険現 東京海上ホールディングス
戦時中閉鎖期東証再開後10301003001,0001938194519491957

年間の高値〜安値戦時中・取引所の閉鎖期増資のあった年(その年の値幅には権利落ちの影響を含む)

表で見る(全データ)
年トヨタ自動車工業松下電器産業東京芝浦電気日立製作所八幡製鐵東洋紡績東京海上火災保険
1938——105〜94.7115.5〜79.577.8〜57.1192.3〜145.1163.5〜148
1939——124.4〜9699.7〜70.669.9〜59.5215.4〜150154〜143.5
1940——137.5〜87100.2〜62.169〜53.1207.6〜149.6156〜123.5
1941——100.9〜8478.5〜58.962.2〜51.9176.5〜146129.8〜109
194268〜52—119.5〜91.897.4〜72.364.1〜58.1178.7〜140121.4〜111.7
194369.6〜51.8—109.3〜91.795.7〜85.863.3〜61.5152.3〜136.2126〜109.3
1944——103.5〜7788.8〜66.462.2〜58130.5〜98.8—
1945—63.2〜63.299.8〜7173.3〜64.759.5〜55.2120.6〜92.5—
1946—30.5〜2362.5〜29.243.5〜2025.5〜12.8142〜7964〜36.5
194762〜4375〜29.575〜2956〜23.917〜7.2173.5〜102.577〜37.5
1948193〜56 ▲135〜43165〜62 ▲65〜45 ▲160〜15.7618〜161.4 ▲420〜50
1949127〜60 ▲95〜93190〜45 ▲183〜40 ▲195〜32820〜165 ▲850〜339
195060〜2160〜2748〜4548〜23.588〜50 ▲239〜124610〜301
195169〜39.5160〜5159〜25.573〜35106〜66 ▲225〜138 ▲725〜310 ▲
1952202〜72 ▲275〜96188〜56155〜72 ▲150〜74 ▲218〜1371,145〜256 ▲
1953233〜100 ▲325〜160213〜106 ▲170〜40.296〜53299〜1801,196〜288 ▲
1954116〜68203〜70 ▲113〜71 ▲103〜65 ▲64〜42260〜122 ▲330〜224
1955154〜77182〜7480〜62 ▲86〜6673〜49 ▲180〜128332〜225
1956235〜122 ▲221〜151 ▲97〜69 ▲124〜86 ▲92〜66 ▲225〜140 ▲316〜124 ▲
1957282〜142 ▲261〜163 ▲103〜70 ▲137〜86 ▲92〜62217〜162153〜97

出典:『株価20年(昭和33年版)』東洋経済新報社(運営者による転記)。単位は円。年間の最高値〜最安値で、増資による株価の切り下がり(権利落ち)は調整していません。空白は記録のない年(1944〜45年は一部企業で記録なし、取引所の閉鎖期は取引所外の「集団取引」の価格)。当時の株価は額面や株式分割の違いから、現在の株価とは比べられません。

4つの時代で読む

1938〜1945戦時中:統制と買い支えで「動かない」株価

政府は株価の急落を防ぐため、日本証券投資(1940年)、日本協同証券(1941年)を設け、1941年8月には株式価格統制令を公布しました。戦局が悪化した1944年以降は戦時金融金庫が無制限に株を買い支えています。グラフでも1942〜45年は値幅が小さく、たとえば日本製鐵(のちの八幡製鐵)の1943年は61.5〜63.3円にとどまりました。市場の自由な値付けが失われていた時代です。

1945〜1946敗戦:取引所は休会、6社中5社で株価が6〜8割下落

1945年8月10日、全国の証券取引所は休会に入り、そのまま終戦を迎えました。GHQは取引所の再開を認めず、株式は取引所外の「集団取引」で売買されます。財閥解体、新円切替、戦時補償の打ち切りが重なり、株価は大きく崩れました。

企業戦時中の高値1946年の安値下落率
松下電器産業63.2円1945年23円−64%
東京芝浦電気99.8円1945年29.2円−71%
日立製作所73.3円1945年20円−73%
日本製鐵(のち八幡製鐵)59.5円1945年12.8円−78%
東洋紡績120.6円1945年79円−34%
東京海上火災保険126円1943年(44〜45年は記録なし)36.5円−71%
1946〜1949インフレ:名目では上がっても、実質は大暴落

戦後の激しいインフレで、1949年の卸売物価は戦前(1934〜36年平均)の約209倍になりました。株価も名目では戦前を上回りましたが、1938年と1949年の最高値を比べると、上昇は最大でも約5.2倍(東京海上火災保険)。物価の上昇分を差し引くと、株の実質的な価値は戦前の数%程度まで目減りした計算になります。

企業1938年の高値1949年の高値名目の倍率
東京芝浦電気105円190円1.8倍
日立製作所115.5円183円1.6倍
日本製鐵(のち八幡製鐵)77.8円195円2.5倍
東洋紡績192.3円820円4.3倍
東京海上火災保険163.5円850円5.2倍
参考:卸売物価1934〜36年平均=1208.8約209倍

※ 1949年の株価には1948〜49年の増資による切り下がりを含みます。物価の基準年(1934〜36年平均)と株価の比較年(1938年)は一致しないため、実質価値の目減りは概算です。

1949〜1953東証再開、ドッジ不況、そして朝鮮特需

1949年5月16日に東京証券取引所が再開しましたが、緊縮政策「ドッジ・ライン」によるデフレ不況で株価は下落し、1950年7月6日に日経平均は史上最安値の85円25銭をつけました。その直前の6月25日に始まった朝鮮戦争の「特需」で日本経済は息を吹き返し、株価は大きく反転します。ドッジ不況のチャートと当時のニュース →

現代の戦争と株価:「遠くの戦争は買い」は本当か

「遠くの戦争は買い、近くの戦争は売り」

古くからの相場格言です。自国が戦場や当事者になる戦争は経済に深い傷を残す一方、遠い地域の戦争では株価の下落は一時的で、むしろ買い場になることが多かった、という経験則です。

朝鮮戦争から2026年のイラン攻撃まで、7つの出来事の前後で日経平均がどう動いたかを、開戦前の営業日を100として比べました(終値ベース、2026-10-09時点のデータ)。

朝鮮戦争1950年6月25日・朝鮮半島
90100110120前営業日=100−10日030日60日最安 −5.9%+21.8%
湾岸戦争(開戦)1991年1月17日・中東
90100110120前営業日=100−10日030日60日+18.5%
米同時多発テロ2001年9月11日・米国
90100110120前営業日=100−10日030日60日最安 −7.7%+4.9%
イラク戦争2003年3月20日・中東
90100110120前営業日=100−10日030日60日最安 −5.5%+9.8%
ロシアのウクライナ侵攻2022年2月24日・欧州
90100110120前営業日=100−10日030日60日最安 −6.6%+0.9%
イスラエルのイラン攻撃2025年6月13日・中東
90100110120前営業日=100−10日030日60日最安 −0.9%+14.3%
米国・イスラエルのイラン攻撃2026年2月28日・中東
90100110120前営業日=100−10日030日60日最安 −13.2%+12.7%
出来事反応した日約3ヶ月内の最大下落元の水準に戻るまで60営業日後
朝鮮戦争1950年6月25日 +2.4% −5.9%1950年7月 13営業日1950年7月 +21.8%
湾岸戦争(開戦)1991年1月17日 +4.5% 下回らず — +18.4%
米同時多発テロ2001年9月11日 −6.6% −7.7%2001年9月 20営業日2001年10月 +4.9%
イラク戦争2003年3月20日 +1.8% −5.5%2003年4月 31営業日2003年5月 +9.8%
ロシアのウクライナ侵攻2022年2月24日 −1.8% −6.6%2022年3月 16営業日2022年3月 +0.9%
イスラエルのイラン攻撃2025年6月13日 −0.9% −0.9%2025年6月 2営業日2025年6月 +14.3%
米国・イスラエルのイラン攻撃2026年2月28日 −1.4% −13.2%2026年3月 33営業日2026年4月 +12.7%

データから見えること

① どの戦争でも、株価は短期間で元に戻った

7件のうち7件で、日経平均は開戦前の水準を回復しました。下落した場合でも、元に戻るまでは長くて33営業日(約2ヶ月)でした。60営業日後(約3ヶ月後)には7件で開戦前を上回っています。敗戦で6社中5社で株価が6〜8割下落し、インフレで実質価値の大半を失った1945年とは、まったく異なる結果です。

② 日本への影響は「距離」より「原油」で決まる

最も下げが大きかったのは米国・イスラエルのイラン攻撃(2026年2月)で、−13.2%まで下落しました。ホルムズ海峡をめぐる緊張で原油価格が急騰し、原油の多くを中東から輸入する日本経済への打撃が意識されたためです。ロシアのウクライナ侵攻でも、資源高やインフレへの懸念が重荷になりました。地理的に遠い戦争でも、エネルギーや物価を通じて日本株に影響が及ぶ点には注意が必要です。

③ 朝鮮戦争は「特需」で大相場の起点に

朝鮮戦争の開戦直後、日経平均は史上最安値まで下げましたが、その後は米軍の特需で企業業績が急回復し、3ヶ月後には開戦前を2割上回りました。「遠くの戦争は買い」の典型例とされます。

※ 過去の値動きであり、将来の株価を保証するものではありません。戦争の影響は、規模・期間・エネルギー価格・金融政策などで大きく変わります。件数も限られるため、経験則として受け止めてください。本ページは教育・情報提供を目的としたもので、投資助言ではありません。

まとめ

自国が戦争に敗れた1945年前後には6社中5社で株価が6〜8割下落し、インフレによって実質的な価値の大半が失われました。一方、戦後の日本から見て「遠い」戦争では、株価の下落は一時的で、2営業日から33営業日(約2ヶ月)ほどで元の水準に戻っています。ただし、原油高のように日本経済に直接響く経路がある場合は、下落が深くなることもあります。歴史は、慌てて売るより、落ち着いて長い目で見ることの大切さを教えてくれます。

出典・参考資料

関連:暴落・暴騰の年表 / ドッジ不況 / 今の下落を過去と比べる